社長は今日も私にだけ意地悪。
「大丈夫か?」

突然、ふわりと肩に優しい重みを感じる。

それは、社長が着ていたスーツのジャケットを、不意に肩に掛けられた重みだった。


「それ羽織っとけ」

「え、でもそしたら社長が寒いですよね」

「全然」

……どうしよう。こんなことされたら、嬉しくてたまらなくなる。
社長が着ていたジャケットを羽織ったら、社長に包まれた感覚がしてしまった。
私はつい、ジャケットを支える手にぎゅっと力を入れて込めた。


「……そう言えば、俺も芽衣に話したいことがあったんだ」

社長からの予期せぬ言葉に、私は「え?」と首を傾げる。


「話したいことというか、聞きたいこと、かな」

「聞きたいことですか?」

「この間、どんなメッセージを送ってきたんだ?」

「え、メッセージ?」

そう言うと、彼は携帯の画面を私に見せてくる。
それは私とのトーク画面で、一番下には【メッセージを送信取消しました】の文字が。

そっか、送信取消するとこんな文章が出てきちゃうんだ!


「ずっと待ち続けていた芽衣からのメッセージなのに、まさか読む前に消されるとはな」

「それは……」

言える訳ない。〝社長がいてくれて良かった〟なんてメッセージを送ってしまったことも、社長と恋人が仲良さそうにしているのを見てショックを受けて送信取消したということも。
< 88 / 154 >

この作品をシェア

pagetop