彼と愛のレベル上げ
やっぱり出ない。
あきらめて電話をきって携帯をカバンにしまったときにちょうど潤兄が店から出てきた。


「桃、おまたせ」

「あ、潤にぃ。私払うよ」


カバンからお財布を取り出しながら言うと「いいよ別に。もう払い終わったし」と、思った通りの返事。


「でもっ、ビールおごるって…」

「んじゃさ。もう一軒つきあえ」


潤兄がもう一軒なんてこと言うのなんて珍しい。
飲み過ぎんなとか早く帰れとかなら良く言われるけど…

なんとなくもう一軒と言った時の潤兄の瞳が寂しそうに見えてしまって、


「うん、じゃあそこは私が出すからね?」

「はは、じゃあ高いとこ行くか」


さっき寂しそうなんて思ったのはきっと見間違い。
だって潤兄、またそんな意地悪な事言ってる。

私の安い給料じゃそんな高級な所なんて払えないの知ってるくせに。


「ムリ!」

「前に連れてったバーでもいいか?」

「うん、そこなら…」


大丈夫。
私のお財布でも払えるぐらいだったし。
っていっても、場所なんて覚えてない。


「どうせ場所わかんないだろ?桃」


意地悪そうに私を見て言う潤兄。

う。やっぱりばれてる。
そうだよ、私はかなりの迷子ちゃんだし。


「ちゃんと、連れてってよね」


私はお金払うのは私なんだしと偉そうに付け加えて言った。


そんな私に気にする風もなく、潤兄は黙々と前を歩いてる。
いつもなら隣で色々話しながら歩いていくのに、

私はさっき繋がらなかった電話を気にしつつも、なんとなくおかしい潤兄の態度も気になった。



そんな潤兄の背中を見ながらついて行くうちに目的のバーに着いた。


「ほら、桃、ここ。今度は覚えたか?」

「え。や、あの…」


潤兄の態度が気になって上の空で道順なんて覚えてませんとは言えず、


「ま、ここに来るときは俺が…いや、まぁいいや、入るぞ」

「あ、うん、ありがと」


潤兄の押さえてくれたドアを抜けて店内に入っていった。
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