彼と愛のレベル上げ
食事を終えて、コーヒーを飲んでいると朔也さんが席にタルトを持って来てくれた。


「じゃあこれね。うちで一押しのタルトだからきっと気に入ってくれると思う」

「悪いな、忙しいのに」

「うわー。純哉が腰低いのって気持ち悪いから」

「おまえな……」


朔也さんもわざとそんな言葉を選んで言うから、主任もわかっているだけに本気では怒らないけど。でもそんなやりとりを見ている方はハラハラする。


「うそうそ。桃華ちゃんの親戚には嫌われないようにしないといけないもんね?」


うちの親戚?
もしかして伯母さんのため?


「そうなんですか?」

「だから、そういうことは……」


睨むように朔也さんを見る主任。
いつもなら知らないうちに主任がしてくれていたことも、たまにこうやって朔也さんに暴露される。そのおかげでやっと私は把握できるんだけど。


「はいはい、わかったよ。じゃあね」

「あのっ朔也さん。ありがとうございました」

「いえいえ、お礼なら純哉にどうぞ。こちらはオーダー通りに作っただけだからね」


朔也さんだって急に言われて大変だったのに、いつもこうやって主任が裏で手をまわした事を表に出して自分は何もしてないって言うんだ。

ヒラヒラと手を振って厨房に戻る朔也さん。


「ジュンさん?」

「ん?」

「あのっ、ありがとうございます」

「そんなモモに改まってお礼を言われるような事はしてないですけどね」

「でもっ……」


だって、主任の気持ちは嬉しい。
いつも私が気がつかない事を先回りしてくれる。
それにばかり甘えているわけにはいかないのもわかってる。
でも、それでも。今は感謝の気持ちを伝えたい。


「それでは、お礼は今夜たっぷりいただくとしますか」

「ぇ、」


いや
あの
そういうことじゃなくて。
出来たら他の事でお礼を……

目でそれを訴えるように主任を見ていると、


「そんな熱い目で見られると、夜まで待てなくなりますけどね?」


何、言ってるんですかっ

そう言う意味じゃないのに
もう、主任は昼から何考えてるんでしょうか。


「さて、そろそろ帰りますよ?」

「あ、はい」


今までの話がなかったかのように普通に席を立つ主任。
この切り替えの速さ。私も見習いたい。
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