彼と愛のレベル上げ
目が覚めてあたりを見渡す。

部屋の中は真っ暗。

ベッドサイドに置かれた時計を見れば八時過ぎ。

家に帰ってきたのは五時過ぎだから……

小一時間は寝てしまっていたらしい。



床に散らばった服に手を伸ばし、身支度を整える。

出来たらこのままお風呂に入りたいところだけど……

着替えている途中で自分の左手の薬指にはめられたリングが目に入った。



主任がはめてくれたリング。

そのリングに込められた意味。



着替えを終えてからベッドに座り、暗闇の中でリングを見ながら幸福感に包まれた。




―――カチャ



その瞬間、フワッとかおるバスソープの香りと共に部屋着に着替えた主任が入ってきた。


「起きましたか?モモ」

「あ、はい」


リングを良く見るために大きく広げていた左手をそっと握って右手で隠す。

そのリングを見ていた顔はきっと締りのない顔をしていたに違いないから。


「こんなに早く起きるなら待ってれば良かったですね?」


待ってる?

もう八時だし、先に夕ごはん食べちゃったとか?


「あ、ご飯、ですか?」

「いえ、お風呂ですけど」


いや、あの、だから。
お風呂は一人でゆっくり入ってくれてかまわないんですよ?

絶句していると、


「おなかがすいていないのであれば、先にお風呂に入ってきますか?」

「あ、はい」


こういう気遣ってくれる優しさが嬉しい。

だけど、


「あぁそれとも、入れて差し上げましょうか?」

「いえっ、けっこうですっ」


もう、すぐにそういう事言うんだから。

優しいは撤回、意地悪だ。

座っていたベッドから立ち上がると、ドアの近くに立っていた主任が私の左手を取った。


「何を見てたんですか?」

「え、」


まさか、ニヤニヤしてたの見られた?

かぁーっと顔が赤くなるのを感じて


「さっき、見てましたよね?これ」


と言って触っているのはその手におさまっているリング。


「あ、あの……幸せだなぁって」


言ってしまってからますます顔が熱を持つのがわかって俯く。
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