彼と愛のレベル上げ
コーヒーを見つめたまま潤兄がぽそりと呟いた。


「今日急に店行って悪かったな…」

「え、」


何で潤兄が謝るの?


「この前迎えに行ったら桃がいなかっただろ?」

「あ、うん。ごめん。私も連絡入れればよかったんだけど……」



私から連絡するのは躊躇われた。

なんて言ったらいいのか?
もしも答えを求められたら?

そう考えると、連絡をいれる事は出来なかった。


「…避けられたと思ったんだよ、桃に」


さける?
いや、確かに気まずいと思ってたし、あまり会いたくはなかったのは認めるけど。

そんなことで料理教室休むなんて事は絶対にあり得ない。

それに、そこでさけた所でイトコなんだし、いつかどこかで会わなきゃいけない。


「いや、今キャンペーンやってて仕事がつまってて。それでねっ」

「冷静になって考えたら、そんな事でさけるようなこと桃がするはずないってわかったはずなんだけどな」

「潤にぃ……」


裏を返せば冷静でなかったってこと?

避けられてるかもしれないから会いに来たってこと?


「いや、さっき顔見た瞬間に避けられてたんじゃないってわかったから、それがわかっただけでもいいんだけどな」


自嘲気味に言う潤兄。


口は悪いけど、潤兄はいつだって優しくて、それに甘えていたのは私。

その優しさはお兄ちゃんが妹を思うようなそんなものだと思っていた。

でも、それがもしかしたら潤兄を苦しめてた?


「あのっ、ほんとにごめんね?連絡しなかった事」

「だから、もういいって…俺が好きでやってるって言っただろ?」

「でもっ」

「前も言ったけど、迷惑ならやめる」


さっきまで下を向いていたはずの潤兄がいつのまにかまっすぐとこちらを見ていた……

迷惑ではない。

でもきっとこのままじゃいけない。


「潤にぃ、これから出かけるから、また今度――」

「これから?」

「え?あぁうん、これからジュンさんの所に」


そう言った瞬間顔をしかめる潤兄。


「こんな時間に行ったら向こう着いたら夜中だろ?迎えくんのか?」

「え?迎えは…こないよ」

「は?!そんなん危ないだろ?」


主任とまったく同じ反応に苦笑いするしかない私。


「大丈夫だよ、駅からも近いし道も明るいし」

「……てく」

「え?」


潤兄、今なんて?
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