彼と愛のレベル上げ
私たちはジュンさんがあらかじめ予約をしてくれていたお店に移動した。

私はジュンさんとずっと一緒にいたはずなのに、いつ予約をいれたのかわからなかった。

潤兄と約束した時点でこういう事も気にしてジュンさんに相談するべきだったのに、私はまったく今のこの時まで気づかなかった。


――まだまだだな、私。


ジュンさんの予約してくれたお店は創作料理のお店。

各席が区切られていて他の人に話は聞こえないようになっている。ちゃんと色んな事を考えてここを選んでくれたんだって席に通されてすぐに分かった。



ここに来るまでの間に全く何もしゃべらなかった潤兄。

心なしか緊張しているようにも見える。


「軽く何か飲みますか?」


ジュンさんは潤兄の緊張を解こうとしたのかそう言って声をかけた。


「あ、じゃあビールを」


ジュンさんは店員さんを呼ぶと自分と潤兄のぶんのビールと私のために梅酒をオーダーしてくれた。



飲み物が来るまでの間の沈黙。

ジュンさんにも潤兄にも話しかけられずに私は手持ち無沙汰で携帯をいじっていたけど、そんな事をしていても話は進まない。

だから私は、


「潤にぃ、今までこっちにいたんだよね?」

「あ?…まぁ、な」

「どう、してたの?」


どうしてたか聞くのはおかしいかもしれないけど、全く計画も立てずに東京に来た潤兄はきっと時間を持て余してしまったんじゃないかって。


「うちの会社こっちに本社があるから、知り合いと会ったりしてた」

「へー、そうなんだ」


潤兄の会社がJ社だって知ったのはつい最近の事。

だからその会社の本社に知り合いがいるだなんてことももちろん知らない。

地元の大学を出ているし、まさか東京に知り合いがいるなんて思いもしなかった。


「ほんと、桃。全く俺の事知らないんだな」

「え?…あ、その、ごめん……」


知らないんだなって言われて、申し訳ない気持ちになったけど。

いや、だって。私と音信不通になってたのは潤兄の方。

ほんと、こうやって潤兄とまた昔みたいに会うようになったのはここ一年ぐらいの事。

それも急に頻繁に会うようになったから、なんとなく違和感も感じてた。
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