彼と愛のレベル上げ


「潤にぃ、」

「すぐ電車あるから、それ乗るぞ」

「え?」


この時間は何本も電車が出てる。

だからそんなに急いでそれに乗らなくても次がまた来る。

だけど潤兄は、


「こんなとこ、一分でも一秒でも早く出たいんだよ」


吐き捨てるように言い、私の手首を取り急がせた。


「ちょ、潤にぃ、痛いってば」


強く掴まれた手は言うほど痛くはなかったけど、潤兄の言った言葉が刺となり今までジュンさんといて幸せだった時間までもけがされたような気がした。

私がちょっと強い調子で言ったせいか、潤兄はパッと手を離し、


「予約したから、少し急げ…」

「……うん、わかった」


私のその言葉に、急ぐしかなくて小走りで潤兄の後について行った。




電車に乗り、座席を見つけると潤兄は私を窓際に座らせた。


「疲れてるんなら、寝てていいから」


さっきとは違い優しい声で言う。

潤兄は乱暴な物言いだけど、決して私に怒ったり怒鳴ったりする事はなかった。

いつもの優しい潤兄に戻ってくれたみたいで嬉しくなった。

だから私は、ジュンさんと対峙したときに殺気立っていた潤兄は、ちょっと気が立ってただけだったのかもなんて思い、



「潤にぃ、あのね。」

「ん?」

「私ね、潤にぃとジュンさんは仲良くして欲しいと思ってるの。だって年も近いし、私にとってはどっちも大切な人だから――」
「桃。それはムリだから」

「え?どうし――」
「桃とアイツが一緒にいるのなんて絶対認めない。」

「潤にぃっ、」

「…アイツの隣にいて、桃が幸せになれるはずなんかないんだよ」

「そんなことっ、」

「そんな事ない?…だったら、何で桃のこと迎えに来ないんだ?プロポーズされたのか?」

「それはっ、」

「それは?理由があるんなら言ってみろよ。」


片眉をあげ機嫌の悪さを前面に出したまま言う潤兄に、私は告げる言葉もない。

だって、潤兄の言うとおりだ。


ジュンさんもこの先一緒に居たいとは言ってくれた。

うちの両親にはお付き合いをすることの承諾を得るために来てくれた。けどそれは、結婚の挨拶ではない。

潤兄の言うように、私はプロポーズもされていない。


正式に未来の約束をもらったわけでもないんだ。
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