彼と愛のレベル上げ
壁に掛けられた時計を見ればまだ八時すぎ。

約一時間で梅酒二杯って、ちょっとペース早いかな?

いつも飲み過ぎるなと言われ続けているせいか自分でもセーブしてしまう。

それに気づいた望亜奈さんが備え付けのベルで店員さんを呼んだ。

しばらくするとノックの音がして、部屋のドアが開いた。


「失礼します」


店員さんの後ろに続いて入ってきたのは望亜奈さんの彼。


「もあ。」


優しく望亜奈さんを呼ぶ声と、


「なんで俺がおまえらのデートに同行しないといけな――」
「潤にぃっ、」


私の声に潤兄は、そのまま踵を返して部屋から出て行こうとする。

それに気づいた望亜奈さんの彼は店員さんにビールをオーダーするとそのまま扉を閉め「相良、とりあえず座ろうか」と言った。

さっき望亜奈さんを呼ぶ時はあんなに優しい声だったのに、今はそれとは違い低く、強い調子で部屋に響いた。



―――カタン



椅子を引く音がして席に座る潤兄。全くこちらを見ようともしない。

私の事なんて見えてないみたいに……


店員さんが潤兄たちのビールを運んできて部屋から出ていくと望亜奈さんは、


「とりあえず、乾杯しようか」

「ほら、相良もジョッキ持って」


「「かんぱーい♪」」


グラスは合わせられ、小気味良い音がしたけど乾杯っていう雰囲気ではない。

さっきまではほろ酔いだったはずなのに、潤兄の登場ですっかり酔いも醒めてしまっている。


「とりあえず今日は好きなだけ飲んでいいからね、二人とも」

「え、」


私はともかく、潤兄にも言ってるのはどうしてなんだろう?


「相良も。明日休みだしいいだろ?たまには」

「うん、私も飲んじゃおう」

「もあは、控えめにね」


優しく窘める事も忘れない彼。

優しそうな人だなぁとは思っていたけど、今の感じでそれだけではない事を知る。

「はぁ~い」なんて甘い声で返事をする望亜奈さんも可愛いくてクスっと笑っていると



「はいはい、桃ちゃん次違うの飲んでみる?」

「や、あの、いえ。同じので大丈夫です」


気がつけばさっききたばかりの三杯目のグラスも液体の残りはわずか。
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