彼と愛のレベル上げ
結局その日。

車だからと断るジュンさんに今日は泊まればいいからとお酒をすすめたお父さん。

私はお母さんに手伝ってもらってオードブルを一品作った。

今はビールを飲んでいるからこれでいいけど、お父さんの事だからそのうち日本酒とか言い出しそう。

朔也さんに習っているのはイタリアンだから和食のおつまみとかって全然で…

それはいいわけか。


「桃華ちゃん。三カ月しっかり富貴子さんに教わるのよ?」

「…うん」


三カ月で何でも一人で出来るようになるんだろうか?

今だって独り暮らしで一通りはしてるけど。あいかわらずお料理は……


「仕事しながら修行するのって大変よ?」

「…うん」


三月になれば仕事も忙しくなるけど、しばらくは大丈夫なはず。

だからその間に慣れるしかない。


「でも結婚したら毎日することよ?」

「うん…」


最初は頑張ってやったとしても、頑張ってばかりじゃ続かない。

だから日常的にできるようにしておきなさいっていう事なんだろう。


「桃華ちゃんが東京に行っちゃったら、お母さんだって手伝ってあげられないんだから」

「うん」


…そうなんだよね。

お婆様にもお母さんにも今のうちに色々教えてもらわないといけない。

一人暮らし始めた時も、色々聞いておくんだったなーってこと一杯あった。


「…頑張りなさい」

「ありがとう。お母さん」


これは天ケ瀬桃華としての最後のクエスト。

これがクリアできた時に私は……



「はい、じゃあこれね。二人に持って行ってね」

「はーい」


料理を運んで行くと、二本あったはずのビールはすでに飲み終えていた。

どんだけ飲むの?お父さん。

しかも、お父さんとお母さんの馴れ初めなんて話してるし。

社内恋愛だって言ってたけど、どっちからとかそんな話までは聞いた事ない。


え?何それ。お母さんを閉じ込めておきたくて専業主婦にさせた?

ちょ、お父さん危ない人みたいですよ?


「わかりますその気持ち。自分ひとりだけで愛でたいものですよね?」


ジュンさんまでっ

あまりの恐さに私はそのままお料理をおくとキッチンに戻った。
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