彼と愛のレベル上げ
翌日の午前中にジュンさんはスーツ姿で現れた。

私が車を持ってきているので、電車で来たらしい。

言ってくれれば駅まで迎えに行ったのに……


「すみません、いつも突然の訪問で」

「いいえ、こちらの方こそ無理ばかり言ってごめんなさいね?」


玄関に行くのが遅くなってしまった私のかわりにお母さんがジュンさんに謝っていた。


「あの、どうぞ」

「失礼します」


ジュンさんが家に挨拶に来るのはこれで三度目。

一度目は八月で、二度目は十二月。

思い返してみてもジュンさんと付き合い始めてまだ一年経っていないのに随分と色んな事があったように思う。


「桃華ちゃんはお茶をいれてね?」

「え?」


ジュンさんの後ろからリビングに入ろうとしていた私にお母さんは言う。

この前もそう言っていつのまにか修行の話になってたから、今度こそは最初から見届けないと、と息巻いていたのに。


「日本茶でお願いね」

「…はい」


しぶしぶキッチンに行きお茶を入れ始める。

そこにお母さんが戻ってきて準備を手伝ってくれた。


「堂地さんて、本当に何でもやっちゃうのね?」

「え?」

「だって、お父さんが言ったの昨日の午後よ?それなのに今日にはこうしてまたご挨拶に来てくれるなんて、ねぇ」


本当にそうだよね。

頭の中ですぐに結論を出して即行動。


「…仕事でもそうなの。何でも先回りして全部完璧にしちゃうの。だから本当に私なんかでいいのかなってずっと疑問に思ってた」

「ふふふ、そうね。あんなに完璧だとちょっと卑屈になっちゃう気持ちもわかるわ」

「…うん」


いまだに隣に並ぶにはまだまだ修行しないといけないと思ってる。

だけど、それでもずっと一緒に居たいと思う。


「でも桃華ちゃん、堂地さんとお付き合いするようになってから随分と変わったわ」

「そうかな?」

「いつのまにかお料理も出来るようになっちゃってるし、これならお父さんもうんと言ってくれるんじゃないかしら?」

「そう、だといいけれど……」
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