彼と愛のレベル上げ
「あ、あの、私。バレンタインにチョコレート作ったんですけど。それ結構大きかったんですけどジュンさん、全部食べたって……」
「まぁ……」
「そのっ、だから、無理させたんじゃないかって……」
申し訳ない気持ちで一杯になってお婆様の顔が見れない。
「あの子がイヤなものを無理に食べると思う?」
「え?」
そう言われて顔をあげてみるとお婆様は微笑んでいた。
そして、今までの事を考えてみた。
営業先では断ったみたいだけど、机に置かれたチョコレートは持ち帰ったはず。
……それは?
「あの日、遅い時間だったけど家に来てね…―――
「富貴子さん、これ」
孫の純哉に小さい頃から刷り込んで自分の事をそう呼ばせていた。
その純哉が手にしているのはチョコレート。そういえば今日はヴァレンタインデーだった。
「あら、チョコレートじゃない。今年は少ないわね?」
「営業行ってたから、全部断ったけどこれだけ机にあったからそれは仕方なく持って帰ってきた」
いつもチョコは断ってるけどどうしても渡してくる人がいて、甘いものが嫌いな純哉はその処理に困っていつもこうやって持ってくる。
「これをくれた人たちは私に溶かされちゃうなんて思いもしないわよねぇ?」
「…言うなよ」
そう言った純哉がカバンと一緒に持っているのは小さな紙袋。そこから透けて見えた包み紙。
あきらかにそれは孫の純哉が大切そうにしているのが見えた。
純哉はチョコが嫌いなはずなのにどうしてなのか?疑問に思って聞いてみた。
「それは?いいの?」
その小さな紙袋を見て言うと純哉が焦ったように
「これは、いい。…大切なものだから」
「……そう。わかったわ。いつか紹介してね?」
すべて見透かしているかのようにそれだけ言うと微笑んだ。
その時の事を話してくれた富貴子さん。
「あれが桃華ちゃんが作ってくれたチョコレートだったのね?」
「あ、……たぶんそうです」
身内のいる前でそう言われて恥ずかしくて俯く。
「いつか紹介してって言ったのに、遅いわよねぇ?あれから何カ月経ってると思ってるのよ、純哉は」
「あはは、、そう、ですね……」
だって付き合ったのってほんと5月で。
ていうか、まだ恋人としてあったのも両手で足りるとかこの場では言えない気がした。
あぁなんかお婆様に主任の事聞いてたらやっぱり会いたくなっちゃったな……