彼と愛のレベル上げ
今は仕事中じゃないから、直接マグカップを主任に手渡した。

「ありがとう」と言って主任は受け取り、私に隣に座るように促した。


「えと、今日もお疲れさまでした」

「モモもね?」


そう言ってから主任はマグカップに口をつけた。

主任のその様子を見ながら「何時の電車だったんですか?」って聞いたのに、


「ん。やっぱりモモのコーヒーが一番おいしいですね」


いや、そうじゃなくてですね?
今何時の電車だったのか聞いたんですけど?


コーヒーを飲む主任を見つめたままだった私に気づいた主任が


「少しズルをして東京駅の近くから直帰にしたんです」

「え?」

「逆算すればわかるでしょう?7時の電車に乗らないとこの時間にここに居られませんよね?」


確かに。おっしゃる通りです。
でも、主任の口からズルしたとか似合わないっていうかそんなことするわけないっていうか。


「ここに早く帰ってくるためなら何でもしますよ?」


あ、またよまれてる。
そうだ。いつもこうやって主任に心を読まれちゃうから、会話が成り立たないっていうか途中で終了しちゃうんだ。


「ちゃんと、真面目に仕事してください!」

「たまにはモモに叱られるのもいいですねぇ……」

「そうじゃなくてっですね?」

「はは、ごめん。つい」


ついじゃありません、
いつもいつも、「つい」でいじめられる方はたまったもんじゃないです。


「お話、してくれるんですよね?」


このままじゃいつまでたっても主任のペースのままで先に進まなそうだから思い切って私から聞いてみた。

主任と付き合い始めてから私が自分でも唯一変わったなぁと思えることの一つが自分から話題をふれるようになったということ。

自分にだって伝えたい事がある。

会っていればその態度やしぐさでわかるけれど、残念ながら遠距離の私たちには自分で伝える事がすべてだ。

だから、自分から伝える努力をしている。


「あぁそうでした。あまりにも可愛らしいのでうっかり忘れて手出ししそうになってました」


ケロっとして主任はこう言う事言うからたちが悪い。
可愛らしいとか、手出しとか、放っておくとすぐこういう事ばかり。

またこうやって話が主任に持っていかれそうになるから「真面目に、お願いします」と強い調子で言ってみた。


「そうですね」


今度はわかってくれたのか。主任はマグカップをテーブルに置き、私の方に向き直った。
< 55 / 240 >

この作品をシェア

pagetop