ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間

ブルとパグ




会社に着き、デスクに座ると同時にコリーが心配そうに声を掛けてきた。  


「昨日、大丈夫でした?
菊水に行ったんですよね?」  


「あ、うん。 別に問題はなかったけど…」  


すでにシェパードは出社しているにも関わらず、コリーは事情を知らなかった。
敢えて伏せてあるのだろうと読んで、平静を装った。  


「あ、そうですか。
それなら、安心しました。
鷲尾会長の呼び出しだって聞いたから
何かあるんじゃないかって
心配だったんですよぉ」  


「ありがと。 でも、大丈夫だから」  


と笑顔で返すと、コリーも満面の笑顔で返す。
事は済んだと思いきや、コリーが付け足すように続ける。  


「あ、そういえば
総務部の牛込課長が
村上さんを探してましたよ」  


――パグが?  


コリーの前では驚いてはみたものの、探している理由はわかっている。

今日はブルの指令の日。
何事かとコリーに詮索される前に、さっさと総務部へと向かう。

総務部のドアを開けて、フロア内を探した。
パグは相変わらず眉間に皺を寄せて、デスクで新聞を読んでいた。  


「課長、おはようございます」  


新聞を持ったまま、パグがメガネをずらして上目づかいに見る。
挨拶を返しもせず、周囲に気を使いながら小声で訊いてきた。  


「あの件は進んでるのか?
決行は今夜だぞ」  


「はい。 準備はできています。」  


嘘だ。
準備なんて、まるっきりできてはいない。

が、何も進んではいないと言えば、眉間の皺が深くなることは間違いない。
ハキハキと元気よく答えることで、この場は抑えられるだろうと踏んだ。


案の定パグはそれだけ確認するとそそくさと新聞を畳んで、足早に部長室へと二人で向かった。  



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