ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「ほぉ、やればできるるじゃないか」
パグの報告を受けて、歓喜に目を輝かせるブル。
と同時に私の体を舐めるように視線が這っていく。
色仕掛けで迫った妄想でもしてるに違いない。
「偶然が重なって 部長の自宅に招かれただけです」
「ほぉ、偶然で…か。
まぁ、そういうことにしておこう。
結果、準備できたのならそれでいい。
自宅に入る前に牛込に電話しろ。
あとは何をしようが君の勝手だ」
ニンマリ笑うブルに反応しないように、一点を見据えて無視をする。
無反応の沙希に念を押すようにブルが確認する。
「ちなみに、
誰にも言ってないだろうな?」
「はい。 誰にも言ってません」
軍隊さながらに訊かれたことのみに淡々と答える。
「そうか、まあ信じよう。
だが、もし嘘だとしたら、
どうなるかは覚えてる…な?」
「はい。 覚えてます」
ふざけた態度と捉われようが、余計な会話をするのも避けたかった。
気のない返事でこちらの意を組んだのか、結果だけ聞いて満足したのか、ブルはパグに目配せするとそのまま椅子をクルッと回して沙希に背中を向けた。
――もう帰っていいのかな?
と思った沙希だったが、最後に気になっていたことを訊いてみた。
「写真はいつ渡してもらえるんですか?」
パグの眉が上がる。
ブルはそっぽを向いたままだ。
代弁するようにパグが吠えた。
「ちゃんと全てが終わってからに
決まってるだろっ」
「全てが終わってから?
私は調査のキッカケ作りだけって
それだけなんですよね?」
「そうだ。
だが、終わってみない事には
キッカケも何もないだろう?」
言葉に詰まる。
優位なのは向こうだ。
ここで変に抗っても写真が手に入るわけでもない。
「違うか?」
「わかりました。
全て終われば写真は貰えるんですね?」
そっぽを向いていたブルが椅子をクルっと元に戻し、これ以上訊くなと言わんばかりに圧をかける。
「約束しよう。
まぁ、後は我々に任せてくれればいい。
週末には結果も出てるだろう。
写真はその時に渡す。
それで、異論はないな?」
「わかりました」
渋々承諾して、部長室を出た。
ガックリと項垂れて、企画部のフロアへと向かう。