ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「だから、沙希は甘いのよ」
頼んだラザニアを一口頬張ってから、陽子はスプーンを沙希に向けて話を続けた。
ベテラン刑事が若手の刑事にそう説教していたドラマのシーンがあったなとふと思い出した。
ベテラン刑事が主張の証明を得意気に語りだす。
「修一さんは感づいてるんだって。
沙希が知ってる事。
沙希、さっきさぁ、
『二人きりってよくあるの?』
って訊いたって言ったでしょ?
それ訊いたら、相手はどう思う?
二人きりで何かしてんじゃないの?
って疑われてるように感じたりしない?
それに感づいた修一さんは
捜査が紙袋に及ぶ前に逃げたのよ」
「え~、そうかなぁ…
修一、そこまで読むのかなぁ?」
沙希が怪訝な表情をすると、陽子は手の平で額を押さえて天を仰いだ。
どうしてわからないんだ?という意味だろうため息を吐くと、口を真一文字にしてしばらく黙り込んだ。
自分の推理を理解しようとしない生徒に、どう伝えようかと教授が悩むそれに似ている。
突如、ポンと手を叩いて口を開いた。
「あのね、沙希
男はその昔、原始人のころから
狩りをするのが仕事だったの。
今みたいに武器が揃ってはないから
マンモスを倒すのにも命がけだったのね」
なんだか壮大な話になってきたが、熱弁を振るう陽子を止めることもできず、沙希はうんうんと頷いた。
陽子は一口水を飲むと、沙希に質問を投げた。
「で、命がけで戦った後は 男はどうすると思う?」
「う~ん…わからない」
正解を求めていない陽子は、「それはね」と今度は嘆くでもなく、当然のように講義を続けた。
「遺伝子を残そうとするのよ。
だって、次の戦いでまた生き残るって
保証はどこにもないんでしょ?
じゃあ、今のうちに遺伝子を残そうって
動物の本能として培われたんだって。
だから、男って仕事でもスポーツでも
成功や功績をあげたときって
アドレナリンが出てヤリたがるらしいの」
へぇ~と沙希が興味を示した返事をすると、陽子は気を良くしたのか一気にまくし立てた。
「で、ここからがミソなのよ。
でもいくら遺伝子を残そうと思っても
もし、全員が狩りで死んじゃったら?
遺伝子残せないよね?
そこで男は進化したの。
集団で動くだとか戦術とか策略ってのを
考えるようになったのよ。
つまり、 本能的に策略家なんだよ、男は。
だから、修一さんも策士なんだって。
ね、わかる?」