ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



熱く講じてくれた陽子には申し訳ないので、余計にわかりづらくなったとは到底言えない。
わからないと答えたところで、陽子はまた頭を悩ますだろうし、不毛な講義が続く可能性は高い。  


「訊くときに使った言葉を間違えたことで
修一は、先読みしたってことね」  


理解と賛同を求める陽子に適当に話を要約して答えると、  

「そう! やっとわかってくれた」  


陽子は正解を出した沙希にではなく、正解を導き出した自分に納得しているようだった。
こちらは要約しただけだけど、と心の中で思いつつも、これ以上の解説は要らない。
と思ったのも束の間、足止めを食らった新たな推理を陽子は持ち出した。  


「でも、安心は禁物だけど 救いはあるわよ」  


「何で?」  


「まだ沙希のほうに 分があるってこと。
だって、修一さんは
隠そうとしているのよね?」  


朝のことはさておき、陽子の中では修一はまだ容疑者の域を脱していない。  


「だとしたら、
まだ沙希のほうが大事なのよ。
完全に子猫に気が向いてたら
朝の言葉もないし、
昨日の夜も嘘はつかないよ」  


昨晩の態度が完全に嘘だと決めてかかられるのも、ハチも憐れだとは思う。
やはり矛先はハチではなく、子猫に向くべきだ。  


「ねぇ、陽子
修一にどうかっていうよりも
子猫に直接言うってのはどう?」  


「証拠もないのに?
なんて言うつもり?
沙希が今、指摘したって
子猫はしらばっくれるよ。
私、そんなつもりないですぅ…って」  


「じゃ、やっぱり
子猫には会うのは
やめといた方がいいね」  


「そうじゃないのよ、沙希。
子猫に会うのはそれでいいの。
ただ証拠もなく言うのって
相手の思う壺ってこと。

会うんだったら、会うだけでいい。
それで十分伝わるわ。
私、気づいてるわよって」  


「そうかなぁ…」
と言いかけて、また飛躍した解説が始まってしまわないかと慌てて肯定した。


「まぁ、でもそれは一理あるね」  


素直な生徒に陽子の目が輝く。  


「でも、子猫、バカじゃないだろうから
会うことは避けるかも…ね」  


「それもそうね。
でも、やるだけやってみる。
あ、そうだ。
土曜日に報告がてら、ランチに行かない?」  


快諾する陽子との作戦会議を終え、沙希は決意を胸に会社へと向かう。



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