ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
子猫
時刻は1時まであと5分。
まだ昼休み中と勝手に決め込み、子猫へと電話を掛ける。出ないかと思いきや、掛けるとすぐに通話になった。
「沙希さん、こんにちはぁ~!」
いつもの子猫らしい挨拶だが、昨日のこともあり、妙に白々しく感じる。
「あ、由紀恵さん、今大丈夫?」
「大丈夫ですけどぉ~、 どうしたんですかぁ?」
「や、あの昨日
電話の途中で切れちゃったから
どうしたのかなって思って…」
「あ、ごめんなさぁ~い。
あの後、急にバタバタしちゃってぇ
電話できなかったんですぅ」
――バタバタしちゃって…ねぇ
大方距離をおいていたハチが近くに来たから、掛け直せなかっただけじゃないの?
口調にトゲが出ないように慎重な返事を心がけた。
「あ、そうだったんだね。
じゃ、話はあれだけってことで
いいのかな?」
「はい。
あのコートが残ってたから
ビックリしちゃってぇ…
スゴくないですかぁ?」
――だから、全然スゴくないって…
「ところで、由紀恵さん、
今夜って時間空いてる?
もし、よかったら、
食事でもどうかなって思って」
「あ~、今夜ですかぁ?
今夜は用事があるんですよぉ。
ほんと、ごめんなさい。
せっかく、沙希さんが誘ってくれたのに…
残念ですぅ…」
「そっか。
急な誘いだったから、
気にしないでね。
また、今度行きましょう」
あくまで明るく振舞いながら、沙希は電話を切った。
陽子が言った通り、子猫は会うのは断ってきた。
悩んでるフリをしながら、計算したのかもしれない。
用事というのも、たぶん嘘である可能性が高い。
そう踏んだ沙希だったが、ハッとして弾かれたように頭を上げる。
――ん?…用事がある?
――まさか、ハチと?
そう思いかけて、いや、それはないだろうと掻き消した。もし、子猫が誘ったとしても、ハチが断るに違いない。
今朝の言葉がある以上、ハチの良心が抑止力になるはずだ。
そう信じて、溜まった仕事に専念した。
夜には、シェパードと会うべくあの店に向かわなければならない。