ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
シェパード
7時30分。
ギリギリで仕事に一段落つけて、BACKSTAGEへと向かう。
途中、ハチにラインを送る。
《ゴメン。 今日は仕事で遅くなるかも》
今日だけは早く帰りたかった。
が、不本意だが仕方ない。
ハチとの未来を守るためだ。
自分にかハチにか心の中で弁明をしていると、ハチからすぐに返信があった。
《そうか。わかった。 仕事、頑張れよ。
俺は早く上がれそうだから 家で待ってるよ》
その文面を見て、ホッと胸を撫でおろす。
子猫と一緒にどこかへ出かけることはなさそうだ。
携帯をジャケットのポケットに入れると、あの店へと歩くスピードを上げた。
8時丁度に店に着くと、すでにシェパードはカウンターに座っていた。
入ってきた沙希に一瞥だけするマスターに軽く会釈して、シェパードの横に座る。
「とりあえず、何飲む?」
と促されて、ジンバックを頼んだ。
沙希に続いて、シェパードも持ち上げたグラスを振りながら、バーボンソーダをオーダーする。
見ると、シェパードはネクタイを外し、すでにグラスはほとんど空になっていた。
その状況から察すると、だいぶ前に着いたのかもしれない。
「今日はお呼びたてしてすみません。
それにお待たせしちゃったみたいで…」
「や、気にすることはないよ。
こっちの予定が早く済んでね。
逆に先に一杯やらせてもらってたよ」
とシェパードが微笑む。
相変わらずの色気を纏った警察犬は、グラスを傾け、一気に空にする。
その姿に見惚れていると、
「昨日のことだが…
あんなことになってしまって
本当にすまない」
頭を下げないまでも、シェパードは沙希に目を合わせ謝罪した。
「いえ、もう大丈夫です。
それに何もなかったわけですから
そんなに心配しないでください」
「そうか。
そう言ってもらえると助かるよ。
ただあんなことがあった以上、
君は担当から外すことにした」
「え? 担当から外す?
私なら大丈夫ですけど…」
「ん?
今日ここに呼んだのは
担当替えを相談するため…
じゃなかったのか?」
シェパードは一瞬面を食らったような顔をしたが、自分の勘違いを自嘲するように訊いた。