ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
埼京線に乗り、新宿から池袋に移動する。
シェパードのマンションは駅から徒歩で10分ほどのところにあった。
オートロックのエントランスを抜け、エレベーターへと乗り込む。
シェパードが慣れた手つきで最上階のボタンを押す。
移動する間、言葉を発することはなかったが、エレベーターを降りるとシェパードは「着いたぞ」と一言だけ言い、部屋の前までツカツカと歩いて行った。
「散らかってるから、
ちょっと恥ずかしいんだけどな」
と言いながら、部屋の鍵を差し込み、ドアを開ける。
玄関を入ると、奥のリビングまで真っ直ぐな廊下があり、左右にトイレとバスの他に部屋が一つずつあった。
一人で住むには十分過ぎるほどの広さだ。
シェパードは「どうぞ」と声を掛けると、奥のリビングに向かう。
沙希がブーツを脱ぐのに手間取っていると、
「コーヒーでいいかい?」
と奥から声がした。
慌てて、「はい」と返事をし、リビングに急ぐ。
リビングの広さは20畳近くあり、ガラステーブルを覆うように3人掛けのソファがL字に並び、その向こうには大きなテレビの両脇に小さなテレビが2つずつある。
異様な光景に唖然としていると、
「それ、おかしいだろ?
みんなに言われるんだ。
お前、テレビっ子か?って。
でも、時間がない中で
ニュースを観ようとすると
どうしてもそうなっちゃうんだ」
コーヒーを淹れながら、キッチンのほうからシェパードが笑う。
「遠慮しないで座っててくれ。
ドリップのやつだから、
あと少し掛かりそうだ。」
そう促されて、ソファの端に腰を下ろす。
腰を下ろすと同時に、バッグの中から携帯を取り出し、パグの番号へと電話を掛ける。
3コールくらいしてから、電話を切った。
何も話す必要はない。
着信履歴で部屋に入ったことがわかるだろう。
合図を送ってすぐに携帯をバッグにしまうと、沙希は改めて部屋の中を見回した。