ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「このマンションって 購入されたんですか?」
「ああ。
2年前に買ったんだ。
高かったけど、奮発してね」
「お一人で住まわれるには
ちょっと広くないですか?」
「そうだな。
一人で住むには…ね。
でも、仕方なかったんだ。
一緒に住むはずだった人が
急に俺の元を去っていったから」
シェパードは淡々と答える。
何も隠す必要などないといった構えだ。
「それが… 新川恵美さん…ですか?」
「そうだよ。
一緒に住む家まで買ったのに
彼女は出て行った。
一緒に住む直前になって、急に…ね」
知ってる。
でも、一緒に住む家まで買ってるとは聞いてない。
答えてくれてはいるが、心中穏やかでないことはシェパードの表情から察することができた。
「その後、彼女から 何か連絡ってなかったんですか?」
「何もない。
だから、彼女とはもう終わってるって」
「本当ですか?」
「本当だ」
シェパードはこれ以上訊くなと言わんばかりに吐き捨てた。
昨晩のハスキーの情報から、沙希には疑問とある推測ができていた。
「じゃあ、何故彼女は
菊水の女将になったんですか?」
「そんなこと… 俺が知るわけがない。
彼女と連絡取り合ってはないからな」
「そうですよね?
でも、だからこそ、
私を担当に
…したんじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「いきなり去って、
連絡もなかった彼女が
ある日突然菊水の女将となって
また目の前に現れた。
そこで部長は私を担当にすることで
彼女の反応を見ようと
したんじゃないですか?」
「そりゃ、勘繰りすぎだって。
反応見てどうするんだ?
本当の理由はそんなことじゃない」
「じゃ、どんな理由ですか?」