ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「今日は初日だし、コピーとお茶出ししながら
とりあえず雰囲気に馴染んでくれ。」


「わかりました、部長。
ですが、もし、差支えなければ
早くこの部署のお役に立ちたいので
仕事をください。」


シェパードの寛大な気遣いをキッパリと断り、沙希は毅然とした態度で返した。


予想外の返答だったのだろう。
一瞬面食らった表情のシェパードだったが、すぐに取り直して答えた。


「そうか、頼もしいな。
だが、見ての通り、今は皆それぞれが
自分の仕事に手一杯でね。
ゆっくり教えている時間と余裕がないんだ。

とりあえずは……そうだな。
今練ってる企画書に目を通して
認識だけしておいてくれ。

 おい、魚谷!」


シェパードが呼びかけると、「はい」という元気な声が返ってきて、中央辺りのデスクからヒョイと爽やか好青年が顔を出す。
明朗活発な笑顔が似合うまだ子犬のコリーだ。


「今日、総務から異動してきた村上君だ。
 彼女に企画書を渡して説明してくれないか。」


「はい。わかりました。」


コリーは元気よく返事をすると、自分のデスクから企画書を取りだした。
企画書はバレンタインデーに向けての商戦のものだった。


コリーの説明によると、既にメインとなる商材は選定済み。
カタログのレイアウトやキャッチコピーを検討している段階だと言う。


一通り説明を終えると、コリーがトイレへと席を外した。
その隙にそろ~とシェパードを観察する。


次々に相談に来る部下に的確に指示を与えている。
その判断の速さと的確さに思わず見入ってしまった。


第一印象通り、やはり「デキる男」に間違いはない。
指示を終えると口元を手で押さえながら、真剣にパソコンに見入るシェパード。


その姿すらも様になっている。
何をやらせても絵になる男、いや警察犬だ。


油断か彼に見惚れてか、気づけばコリーが背後に立っていた。



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