ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



口を滑らせたシェパードが、しまった!と言葉に詰まる。「それは…」と思い悩んだあげく、ついに重い口を開いた。  



「彼女に見せつけるためだ。
君を連れていくことで
俺を捨てた彼女に
後悔させようとしたんだ」  


なんてことだ。
本当の理由がそこにあっただなんて…
ビジネスの道具ならまだしも、こじれた痴話喧嘩の道具に使われていたとは…。


が、それであの時の笑顔が合点がいく。
BACKSTAGEから帰る途中に見せたあどけない笑顔。


やはり、周りが勝手にモテる男を創りあげてただけで、こと恋愛に関しては奥手だったわけだ。
そんなことで、惚れた腫れたの恋愛話が終結するわけがない。


が、恋愛経験の乏しいであろう彼にとってみれば、それがせめてもの復讐だったんだろう。
一緒に住む家まで購入した自分を捨てた彼女に後悔の念を持たせたいのはわからないでもない。
自分だって、ハスキーに同じ行動を取っている。


が、シェパードはそれで本当に満たされたんだろうか?  


「それで、 部長は満足されたんですか?」


シェパードは答えない。  



「満足されてないですよね?
だって、部長自身が未練があるから」  



「それはない」  


弾かれたように顔を上げると、シェパードは強情を張った。  



「でも、彼女は…
まだ未練がある
や、それどころか想いは強くなっています」  



「嘘だ」  



「嘘じゃないです」  


沙希は抗るシェパードの言葉を遮り、キッパリと言い切った。
最初に菊水に行った夜の彼女がシェパードを見る目、そして車に乗り込んだときにシェパードに送った視線。


詳細を知らない中では、単に情事の相手と無粋な想像をしてみたが、今思えば、あれは恋い焦がれる相手への思いを馳せた目だ。


間違いない。



新川恵美はまだシェパードを想い慕っている。




 
< 120 / 153 >

この作品をシェア

pagetop