ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「騙すより、騙されるほうが悪いのよ。
あの女もバカだよね。
お兄ちゃんを昇進させる代わりに
鷲っちに結婚しろって話をさせたら
その通りにしちゃうんだもん。
結果、お兄ちゃんに
恨まれることになっちゃってさ、
マジで笑えるんだけど…」
勝手極まりない子猫のせいで、新川恵美は苦渋の選択をしたのだろう。
いや、させられたのだろう。
受けなければ、彼の将来はない、と。
現に私が脅迫されている。
たぶん、私への秘書交渉も子猫が裏にいるに違いない。
「そんなことして…
許されると思ってるの?」
「あれ? 怒った?
私にそんな口を利いていいの?」
「どういうこと?」
「私、写真持ってるんだけどなぁ。
これ見たら、 関っち、悲しむだろうなぁ」
――…っつ!?
――写真?
気が動転していて、すっかり忘れていた。
シェパードの家に行ったのは写真を撮られるためだったではないか。
――写真?
子猫が言う「写真」とは、今日撮られるはずだったもの?それとも、ポメとの情事のもの?
どっちのことを言ってるんだろう?
そう悩んでいると、数枚ほど紙のようなものが、ヒラヒラと沙希の近くに舞い降りてきた。
そのうちの1枚を拾い上げた沙希はゾッとして、咄嗟に上を見上げた。
シェパードのマンションを見上げたが、何もない。
子猫が笑いながら言う。
「違う、違う、こっちだってば」
慌てて振り返ると、向かいのマンションの中腹の部屋から手を振る人影が見える。
暗がりでよく見えなかったが目を凝らすと、子猫が笑っていた。