ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



――嘘?  



「ヤッホ~」  


冗談交じりな挨拶をする子猫は、笑顔で手を振っている。友達に対するような笑顔に、寒気すら感じさせられた。  


「あんたはぁ、
私に逆らうことはできないの?
これでわかったでしょ?」  


写真を握りしめる私に、自分の優位性を暗に伝える子猫。写っていたのは、抱き合っているポメと私だった。


ブルが持っていた写真とはアングルが違う。
ぼやけていたが、霧が晴れていくように全容が見え始めた。


ポメとの情事も、ブルとパグの指令も全て子猫が仕掛けた罠だったのだ。  



――でも、何故?  



「何で」
沙希の声が震える。
「こんなことするの?」  



「あの女に諦めさせるためよ。
お兄ちゃんとあんたがあの部屋で
一緒にいる写真を見せれば、
バカでもわかるでしょ?

でも、私がいきなり頼んだら
あんた行ってくれた?
もちろん行ってくれないよね?
だから、この写真が必要だったの。」  



当然でしょ、と子猫は平然と話した後、急に面倒くさそうな口調で嘆いた。  



「でも、お兄ちゃん、甘いんだよねぇ。
あんたを連れてくだけで
あの女が諦めるって思ってんだから。
そんなことで、女の情念が
消えるわけないのにね。
だから、私が念を押してあげるのよ」  


ブルの指令は明らかに不可解なものだった。
情報漏えいのキッカケ作りにシェパードの部屋で写真を撮られろだなんて。


が、これで、やっと全てが理解できた。
最初から、子猫の手の内にあった。
そうなるように、仕組まれていたのだ。


でも、私がポメの誘いに乗らなかったら?
や、そうなったとしても、きっと別の手段で弱みを握られたに違いない。  


――ん?  


でも、写真といえば、今日の写真は撮れてないんじゃないの?
シェパードの部屋の間取りを思い出すと、カメラが仕込んであったぬいぐるみからは二人は死角になる位置にいた。


しかも、双方を見比べれば、子猫の部屋はシェパードの部屋からは階下にある。
二人一緒の写真は撮れなかったはずだ。


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