ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「それで あの部屋で写真は撮れたの?」
沙希が探るように訊く。
「バッチリ撮れてるよ~ん。
バカじゃないんだから、
そんなミスしないって。
振り返って、上を見てよ」
子猫の声は嘘をついているようには聞こえなかった。
言われるがままに振り返って見上げると、ドローンが一機飛んでいる。
電話に集中していて、全然気が付かなかった。
ポカンと口を開ける沙希に、挨拶代わりにドローンが一回転している。
この手があったかと敵ながら感心した。
たぶん、ポメとの情事の時もこいつが活躍したんだろう。
「便利な時代になったんだねぇ」
勝ち誇ったように子猫が不敵な笑みを浮かべる。
「機械だけじゃなくて、
熊ちゃんも牛ちゃんも馬ちゃんも
みんな頑張ってくれたなぁ。
やっぱ、ペットは従順が一番よね。
あ、もちろん、あんたもね。
ほんと、ご苦労様でした!」
白々しく子猫は礼を言い、わざとらしく頭を下げた。
私も知らず知らずのうちに、彼女のペットに成り下がってたわけだ。
はらわたが煮えくり返り、悔しさで拳を握りしめる。
が、悔しがったところで、どうすることもできない。
相手の正体は、単なる子猫でも泥棒猫でもなく、その遥か上を行く猛獣使いだったのだ。
一介の飼育系女子に立ち向かえる相手では…ない。
が、それでも一矢は報いたい。
「どうやって彼らと知り合ったの?」
「私ぃ…、
こう見えてもお店ではNo.1なのね。
簡単だよ。
向こうから近寄って来てくれるし、
頼み事はその通りやってくれるしね」
なるほど、夜の店で手なづけたってわけか。
胸元をチラつかせるだけで、土佐犬やブルが鼻の下を伸ばしている絵が容易に想像できた。
「それと… 何で…私だったの?
部長の部屋に行く役は」
「深い意味はないんだけど、
雰囲気が似てたからかな。
あの女に…」
――似てる?
――新川恵美と私が?
キャピキャピしてるわけでもないが、彼女のように凛としているとは自称でも言えない。
「彼女に似てる?
どこが?」
「気の強いところ…かな。
お兄ちゃん、好きなんだよね。
そういう女」
「どうして…」
そう言いかけて、知ってるの?とまでは続けなかった。
訊かずとも、たぶんポメやパグが情報源だったんだろうと察しがつく。
代わりに別の質問に切り替えた。
「そんなに想ってるなら、
何で直接、部長に気持ちを伝えないの?」