ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
当たり障りのない言葉を選んだつもりだったが、反応は逆だった。
想い続けているのに、妹としか見てもらえない。
我慢している鬱憤をぶつけるように、子猫は激昂し、声を荒げた。
狂ってる。
そんなに前から、シェパードを洗脳してきたとは。
BACKSTAGEからの帰りに、彼があどけない笑顔を見せた理由がわかった。
学歴も仕事も申し分ないのに、こと恋愛に関しては純真無垢な10代のままだったのだ。
散々子猫に言い聞かされてきたんだろう。
女は狡猾でズルい生き物だから用心しなさいね、と。
「邪魔はさせない。
あんたも余計なことは
考えないことね。
すべて、失うことになるから」
そう念を押すと、子猫はベランダから姿を消した。
が、ドローンは変わらず、真上から私を監視している。
操縦者はどこのペットかどこにいるのかもわからないが、子猫が良しと言うまで私を追うに違いない。
シェパードの部屋に戻るわけにもいかず、かといってこのまま子猫の部屋を見ていても進展はない。
散らばっている残りの写真を拾い上げると、その中にピースサインの子猫の写真が混ざっていた。
どこまでも癇に障ることをしてくれるもんだと感心すら覚える。
拾った写真をひとまとめにバッグに放り込むと、沙希は駅へと向かった。
ハッと気がつくと、電車のアナウンスは間もなく桜上水に着くことを知らせていた。
激動のここ数日のことを思い出し悩んでいる沙希とは対照的に、電車のアナウンスは感情のない業務的な声で到着を伝えている。
家路を急ぐ客に押し出されるように、沙希もホームへと降りた。
重い足を一歩一歩前に出し、マンションへと向かう。