ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「どうかしたんですか?」
「ううん、べつに…」
「ひょっとして……
部長が気になりますか?」
思いがけないコリーの目ざとさに一瞬怯んでしまった。
「え?…や、そんなことないけど…」
「誤魔化さなくてもいいですよ。
新しくこの部署に移った女性は皆、
まず大和部長に注目しますからね。
一目惚れで目がハートマークに
なっちゃう人も少なくないですよ。
僕も憧れてます。
いつかあんな風になりたいって…
でも、まだ足元にも及ばないですけどね」
「ふ~ん、そうなんだ。
でも、頑張ればなれるんじゃない。
コ、や魚谷君ならきっとなれると思うよ。」
「本当ですか?
村上さんにそう言ってもらえると、
なんか元気でてきました。
よし、頑張ろう!」
無邪気に笑うコリーの白い歯が光る。
胸の奥で「キュン」と音が鳴ったのがわかるほどの爽やかな笑顔だ。
どうやら母性をくすぐるのが上手いのは天性の素質らしい。
凛々しいシェパードに可愛いコリー。
朝一から災難だったが、この2匹に出会えただけでも転部も悪くない気がする。
ただ転部の理由が理由だけど…
まぁ、今はおとなしく『散歩』は控えよう。
シェパードにどう近づくのか、その算段を考えるのが先だ。
失敗は許されない。
いくら忠実なハチと言えども、それは信頼関係があってこそだ。
半端ない忠誠心なだけに、あの写真を見られたら反動で謀反を起こしかねない。
想像しただけで背筋がゾッとする。
とりあえず、明日から休みだ。
難しい宿題は後まわしにして、週末に考えることにしよう。
動くのはそれからでも遅くはない。
気が抜けたところで、天井を仰ぐと大事なことを思い出した。
忘れてた……朝からいろいろあり過ぎたせいだ。
今夜は合コンだったじゃない。
気づけば、時計の針は待ち合わせの時刻に迫っている。
気分一新、今夜は飲み明かすことにしてパソコンを閉じた。