ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「あ、だからかなぁ…」  


不意にコリーが察したような口ぶりで言う。  



「どうしたの?」  



「いや、
今度うちでダイエットサプリの
新製品を出すよって言ったら、
すごい食いついてきたんですよ。
キャンペーン中に購入すると、
人数限定で特典もつくって言ったら、
是非、買いたいって
だから、発売日教えてねって」  



「そりゃ、アイドルだから、
体型維持は絶対条件だもんね」  



「それでだったんだなぁ」  


と納得するコリーの横で、こちらもそれでだったんだと把握した。
早朝に私のデスクで彼が見たかったのは、プレゼンの内容だったんだろうと想像できる。


とすれば、情報の漏えいはシェパードではなく、コリーだった。
狡猾な子猫の手にかかれば、子犬のコリーなど自在に操るのも容易なことだったろう。


自覚のないコリーは冤罪だが、加担していたことには違いない。
でも、まさか、コリーまでもが子猫の下僕だったとは…。


が、もう今更驚くことでもない。
彼女のプランには微塵もスキがない。
敵ながらあっぱれといったところか。  



「ねぇ、 何で彼女は デビューした事言わなかったのかな?」  



「そ…そうですねぇ。
わからないけど…、
でも、彼女からは聞いてないです」  


無論、聞くわけがない。


わだかまりがあるようなコリーの態度に、良心の呵責を感じた。
が、彼の恋は成就するどころか、想いすら届かない。


子猫の手駒として使われ、役目を果たしているに過ぎないのだ。
でも、もしも、この恋が成就したとしても、結局は一生こき使われることになるはずだ。


しかも、コリーの態度を見れば、彼女がシェパードの妹だということすら知らない。
医者が病状を伝えるのに悩むのは、知るよりも知らなかったほうが最善となるケースもあるからだ。


最後まで事実を知ることなく終わったほうが、彼の中で美談として残るのかもしれない。
知らぬが仏とはこの事か。


心は痛むが、彼が子猫に訊かないよう策を講じておくことにしよう。  



「あ、だとしたら、
彼女は慎重な子なんじゃない?
デビューしたからって浮かれて
もし、売れなかったら?
魚谷君に残念だと思わせたくなくて…
言わなかったんじゃ…
だったら、
彼女には訊かないほうがいいね」  



「ああ、そうですかね。
きっとそうですね!
僕、黙ってます」  


疑心暗鬼なコリーの表情がパッと晴れていく。
これでいい、や、良くはないけどこれがベストだ、と沙希は自分に言い聞かせた。  



「じゃ、彼女がメジャーになったら
サイン貰ってね」  



と笑顔のコリーにうそぶいて、デスクに座る。




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