ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「それで、どうだったんだ?」
部屋に入るなり、結果を求めるブル。
失敗したとは言わせない威圧感を装っている。
だが、いくら仮面を被ったところで、その正体はバレている。
子猫の前では鼻の下を伸ばしている単なる好色ジジイだ。
そんな事になってるとは露知らず、威厳が効いていると思ってることが滑稽でならない。
「ちゃんと部長の部屋に行き、
写真が撮れてるかはわからないですが
ある程度の時間は滞在しました」
感情のこもらない機械的な沙希の返事を聞いた瞬間、
「おお!そうか、そうか。
いや、お見事だな」
と感嘆の声を上げるブル。
垂れ下がった頬が上向くほどに喜んでいる。
どうせ、これで子猫に面目が保ったということぐらいのことでしかない。
ご褒美として、子猫に存分に頭を撫でてもらって喜んでればいい。
「色仕掛けで…か?」
目尻を下げ、ニヤついている。
自分の勤める会社の幹部がこの程度かと思うと、ほとほと嫌気がさした。
衝動的に文句の一つも言ってやりたくなったが、まだ人質は取られたままだ。
反抗的な態度を取ったら取ったで、ボスに報告するんだろう。
奴はまだ悪あがきしそうですよ、と。
それに、所詮、子猫の下僕としては下っ端だろう彼らに噛みついたところで、解決する話ではない。
腹に力を込め、沙希は口をつぐんだ。
「それでは失礼致します」
それ以上話すことはないと、やはり機械的にそう言うと、沙希は部長室を後にした。