ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「で、どうしたんだ?」  


椅子に腰を下ろすと同時にシェパードが訊く。
昨晩のこともあり、沙希の話には神経が過敏になっているのかもしれない。


プレゼンまで時間はない。
回りくどい言葉は省き、結論のみを伝える。  


「情報が洩れてる可能性があります」  


「また…か?」  


シェパードはガックリと首を垂れる。
心中察すれば、わからなくもない。

こう何度も他社に出し抜かれているなら、彼の責任問題にもなるだろう。
それに、部内の人間を疑い、犯人を見つけ、会社に差し出さなければならない。


部の団結を願う彼にとっては、不本意であることは間違いない。  
と思った瞬間、沙希の脳裏に土佐犬の言葉が過ぎった。


土佐犬は、秘書にならなければシェパードの進退に関わると言っていた。
進退に関わるとはこの事だったのではないか。


子猫にシッポを振る土佐犬とすれば、彼女の頼み事とあらば、二つ返事で動いてやるだろう。
が、事が思い通りに運ばなければ、シェパードはその座を追われることになる。


じゃ、焦った土佐犬が口を滑らせたのは何故か?
土佐犬はシェパードを本心から心配し、良心の呵責を感じているのではないだろうか?


だが、だとしたら、単なる得意先の間柄で、そこまで心配するものだろうか?
そもそも何故、土佐犬は子猫の言いなりに動くんだろうか?


子猫はシェパードと血は繋がっていないと言っていた。
ひょっとしたら、二人の、いや三人の関係はもっと複雑なのではないか?

状況を整理すればするほど、新たな疑問が泉のように湧き出てくる。
まだ私の知らない事実が潜んでいるのではと、沙希は黙り、シェパードの言葉を待った。  
しばらく黙り込んだ後、沙希が沈黙を破る。  


「犯人を捜している時間はない …と思います」  


コリーは冤罪だ。
情報漏えいをしているという自覚もなく、子猫に操られていたに過ぎない。


部外者とはいえ、情報を流すのは規則に反することには違いない。
が、彼を捕まえたところで、第二のペットがまた同じ過ちを犯すことだろう。


臭いものには蓋をする。
要は子猫を戒めなければ解決はしない。  


「そうだな。 今はそんなことはしてられない」  


と相槌を打ったシェパードが弾かれたように頭を上げる。  

「そうだ。 こうしよう。
今のプレゼン資料が
すでに他社の手にあるなら
内容を何点か変更すると部内で発表するんだ。

もし、部内に
他社と精通している者がいれば
その情報を流すはずだ。
が、実際は 今のままでいく」  



< 137 / 153 >

この作品をシェア

pagetop