ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



企画部室に戻るなり、シェパードは立ったまま、部内全員に聞こえるように説明を始めた。  


「みんな、聞いてくれ。
鷲尾産業へのプレゼンの件だが、
一部変更をする」  


ざわつく部内を無視するように、シェパードは矢継ぎ早に話を続けた。  


「まず発売時期だが、
2月1日ではなく、2月7日に変更する。
それと、
メインで扱うことで 決まっていたが、
BD商戦はメインは別でいく。
とりあえず、プレゼンには
こちらで資料を作る。

結果がでたら、また報告するから
関連する者には迷惑をかけるが
力を貸してくれ。
連絡は以上だ」  


それだけ伝えると、シェパードは椅子に腰かけ、パソコンへと集中している。
しばしの間、部内はざわつきを抑えられなかったが、時間が経つにつれ平静を取り戻した。


周囲の様子を窺ってから、コリーが沙希に小声で言う。  

「また大変になっちゃいましたね」  


「そうね。
でも、やるしかないわね」  


パソコンに視線を向けながら、コリーに返すと  


「そうですねぇ…」  


とシッポを垂らすコリーに、沙希が椅子をクルっと回して付け足した。  


「あ、そうだ。
発売日が変わったこと
彼女さんに教えてあげないとね。
きっと喜ぶんじゃない?」  


「ああ。そうですね。
早速、連絡してみます」  


嬉々としたコリーが携帯片手にフロアを飛び出していく。情報漏えいしているという自覚はあるのか?と疑いたくなるが、沙希は黙ってパソコンに顔を向ける。

今は情報漏えいをしてもらわなくては困るのだ。

コリーが漏えいの当事者だということはシェパードには伏せておこう。
自覚のないコリーがこの事実を突きつけられたとしても、実感が湧かないのではないか。
実感したらしたで、彼の年齢と乏しい経験値では立ち直れない可能性もある。
それは、あまりにも酷な話だと沙希は思った。


それに裏で糸を引いているのが実の妹だと知ったら、シェパードだって例外ではない。
それこそ、まとまる話もまとまらない危険性も無きにしも非ず、だ。


今はこれ以上、手を加える必要はない。  
これで、今し得うる策はすべて取れたように思う。


あとは戦場でベストを尽くすのみだ。  



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