ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
ハスキー
急いで来たつもりだったが、すでに待ち合わせの時刻は過ぎていた。
店内に入ると、他メンバーの3人は待ちわびた様子。
「沙希、遅~い」と急かす陽子、両隣に由紀、美沙がいる。
大学の同じサークルで知り合った気の合う4人組。
美沙以外は皆、彼氏持ち…いや、ペット持ちの飼育系女子だ。
卒業してからも誰からか声を掛けては、こうして月に1回はワンコを交えて飲んでいる。
無論、各々のペットには「待て」の調教済みだ。
仮に女4人だけという嘘を疑われても、お互いのフォローにも息が合っている。
女4人係りの嘘を見破れる男など、そうそういない。
まぁ、うちのハチはそんな心配はいらないけどね。
今頃、おとなしく家で留守番してくれてるはずだ。
今回はペット無しの美沙に付き合いの会だった。。
だから、メイクも控え目にしてある。
皆そうかと思いきや、陽子だけはキメキメで来ていた。
ほんと、節操ないんだから……
困ったもんだ。
促されて沙希が端の席に着くと、すでにワンコ達は整然とお座りしていた。
陽子がはしゃぐわけだ。
中々の面子が揃っている。
大学病院のインターン、弁護士の卵、エリートサラリーマン……
間違いなく、血統書付きだ。
身なりも雰囲気も己の階級を言わずとも物語っている。
温和な性格であろう顔立ちのラブラドール
笑顔がかわいいシーズー
鼻筋と毛並みが綺麗に整った知性溢れるミニチュアダックス
それと……私の対面にあともう一匹。
後ろにおいたバッグの中をガサゴソと何やら探している。
どんな名犬かと期待に胸を躍らせた。
バッグからスマホを取り出しながら、その彼が振り返った。
が、期待とは裏腹に目と目が合った瞬間、言葉を失った。
向かいに座る男も同じように固まっている。
--勇次…何で?
「あ、あれ?…沙希、知り合い?」
隣の陽子が不穏な空気を察して小声で訊く。
「ううん…ちょっと知り合いに似てて
…でも、違ったみたい。」
嘘だった。
敢えて皆の前では素知らぬ振りをした。
彼を知る理由を話せば、この場が白けることは間違いないから。
シッポをブンブン振ってるワンコ達にも美沙にも申し訳がない。
「知り合いに似てるって?
…まぁ、
どこにでもいるような顔だからね!」
こちらの会話に聞き耳を立てていたのだろう。
彼もギリギリのところで取り繕ってくれたみたいだ。
ワックスで流れる髪にシャープな顎のライン、切れ長のクールな眼
ちょっとだけ大人に成長したハスキーだ。