ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
中の卓はこの前と同じ並びになっていた。
土佐犬はまだ着いていないようだった。
座ったまま、何も喋らないシェパードに不安を覚え、彼の表情を窺うと両目を閉じ、考え込んでいるようだった。
これから始まるプレゼンのシミュレーションをしているのか、それとも彼女へ想いを自分自身に問いているのか、それとも別の何かか。
いずれにせよ、黙ったままでは彼の心中を察することも叶わず、沙希も黙ったまま時間だけが進んでいく。
シンと静まり返った部屋の中で、土佐犬とベリーベリーを待つこと15分。
廊下を進む足音が聞こえた。
部屋の前に着き、襖を開ける瞬間、シェパードが一言だけ言う。
「君は黙ってればいい」
部屋の外に気を取られていた沙希が振り返ったが、シェパードの眼はすでに一点に向けられていた。
標的を捉えたまま、瞬きもせず、敵意を剝き出しにしている。
警察犬が犯人を見つけ、いつでも飛び出せる体勢のときのそれに似ている。
その視線の先には、土佐犬と亀井、そしてハスキーがいた。
ド―ベルマンの姿はない。
一昨日の一件があった後ということもあり、席を外したのかもしれない。
逆に平然と来られても、こちらがどう接していいものかと悩むだろうから、
それはそれでよかったと沙希は思った。
各々が自分が座るべき座椅子に腰を下ろすと、土佐犬が最初の声を掛ける。
「では、始めるとするか」