ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
恐る恐るゆっくりと歩を進め、部屋の前で足を止めた。
いつものようにカギを開け、ドアを開ける。
ハチが迎えてくれるいつもの光景が目に浮かんだ。
しかし、思い切って開けたドアの向こうは、ハチの残像が消え、シンと静まり返った真っ暗な部屋だった。
時計を見ると、針は7時を指している。
残業なのかもしれない。
連絡を入れようか入れまいか悩んで、打っては消し、打っては消しを繰り返す。
メールの送信ボタンを押す勇気が出ない。
そもそも、あの写真を見られてたとしたら、どんな文を送ればいいというのだ。
沙希は結局、ハチの帰りを待ち続けた。
だが、ハチは帰ってこなかった。
あるべきはずの遅くなるとの連絡も来ていない。
夜が明けた。
薄暗い部屋の中、カーテンを開ける。
一日の始まりを知らせるように小鳥が鳴き、新聞配達員のバイクの音が響いている。
うす暗い朝の街の光景をぼんやり眺めながら、終わったのだと自覚する。
が、悔やむべきは今日のことではない。
これは、常日頃からハチをないがしろにしてきた私への神様が与えた罰だ。
街の光景を見ながら、ハチが私の帰りをこうやって待っててくれたのだろうかと今更ながら想像してみる。
夕食はいつも温まっていた。
私が帰ってくるのをみてくれていたのだろうか?
カーテンを握りしめ、膝が崩れる。
カーテンのホックが変形し、垂れ下がった。
もう、元には戻らない。
そう思った瞬間、涙が止めどなく溢れてきた。