ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
地元で散歩

お母さんとセントバーナード




そこに携帯の着信音が鳴る。  



――ハチ!?  


弾かれたように顔をあげ、テーブルの上の携帯を掴んだ。
画面を見ると、期待したハチではなく、掛けてきたのは母親の千津子だった。

慌てて、鼻をすすり、電話に出る。  



「どうしたの?」  


「あ、沙希?
 お父さんが…倒れたの。
 あんた、すぐ戻ってこれる?」  



――…っつ!?

――お父さんが倒れた?  



「何で?
 病気なの?」  



「今は治療室に入ってるから
 わからないけど、
 急に倒れたもんだから…

 ね、戻れるんだったら、
 すぐに戻ってきて」  



「わかった。」  



「何、あんた泣いてるの?」


千津子は父の件と勘違いしているんだろう。



「ちょっと落ち着いて。
 あんたが来るまでお母さんしっかり見とくから」



「わかった。
 今から、家出るから」  



なんてことだ。 お父さんが倒れるだなんて。
年末に帰ったときには、あんなに元気だったのに…。


帰省した日を何気に確認すると、
今日の陽子とのランチの約束が書いてある。


そうだった。
今日は陽子との約束があったんだ。
時間も時間だし、道中で連絡を入れよう。


今はとにかく急いで帰ることが優先だ。


沙希は涙を拭うと、簡単に身支度を整えて家を出た。    


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