ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間


二人の過去とは対照的に、場は想像以上に盛り上がりを見せていった。


美沙はラブに照準を合わせてベッタリ。
見れば、すでにラブは「お手」をマスターしているではないか。
見事な早業に、いつもながら感心させられる。


他2人も気がつけば、ハスキー、ダックスとよろしくやっている。
私は仕方なく無難に残ったシーズーとじゃれ合っていた。


途中、化粧室へと席を立つ。
場を見回すと、ハスキーは陽子と会話が弾んでいた。


それでいい。
とにかく今は無事に済んでほしい。
ホッと胸を撫で下ろして、化粧室へと急いだ。


ふと気付くと、メイクを直している自分にハッとする。



――私、何してんだろ?

――今日は応援の参加…

――メイクを直す必要なんかないじゃない



――どうかしてる…



沙希が我に返って化粧室を出ると、その答えが待っていた。
化粧室の向かいの壁にハスキーがもたれ掛かって立っている。


その瞬間、メイクを直したことでホッとする自分を沙希は内心自嘲した。


悲しいのは、女の性だ。

裏切った男にさえ今の自分を綺麗に見せることで恥を掻きたくないか
それとも裏切ったからこそ綺麗な自分を見せつけて後悔させたいか。


ハスキーの反応を窺うつもりもなかったが、向こうが視線を送り続けている。
突如、鼓動が早鐘を打った。  



「何?」
動揺を悟られまいと平静を装う。
「してるの?」  


「それはこっちのセリフだろ?
沙希こそ、こんなとこで何してんの?」


「ト・イ・レ」


「バ~カ、そんなこと聞いてねえよ」  


懐かしい声。
口癖だったセリフ。
昔の光景が甦る。

鼓動が更に加速する。


「今日は頭数合わせの付き合いなの」


「へぇ~、そっか。
 俺も急遽呼ばれてさ。
 じゃあ、お互い付き合いの参加ってことか」




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