ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
場を離れて携帯を耳に当てると、背後から肩を叩かれた。
振り返るとシーズーが勘違いの真顔モードで立っている。
「彼氏?…だったら、今日だけは忘れて。」
柄にもなく、真顔で甘く囁くシーズー。
――シーズーの分際で…上から?
「し・ご・と」
とキッと睨むと、シッポを丸めて慌てて戻っていくシーズー。
情けない。
フンと鼻を鳴らして、電話をかけ直す。
「迎えに行こうか?」
電話に出るなり忠誠心たっぷりのハチ。
よしよしと満足しながらも、丁重に断りを入れる。
「終電には間に合うから、駅でいいよ。」
――ハチのお迎えは駅までってのが決まりでしょ?
だが、寂しかったのか、なかなかハチは鳴き止んでくれない。
宥めるのに苦労していると、また背後から肩を叩かれた。
てっきりシーズーのリベンジかと思いきや、立っていたのは薄情者ハスキー。
見れば、握った右手の親指を立てて首を傾げている。
彼氏?と聞いてるようなので、コクリと頷く素振りをして振り返ろうとしたその時だった。
グッと私の肩が掴まれて、また振り返された。
振り払おうとしたが、その手は強く私の肩を掴んで放さない。
しかも、さっきとは違い、眼差しは真剣だ。
咄嗟に逃げようとしたが、今度は正面から肩を掴まれた。
負けずにキッと睨み返す。
軽はずみなら、眼を逸らすはず…
が、ハスキーは眼を逸らさない。
ゆっくりと近づく瞳
――やめて
無駄な抵抗だった。
ハスキーの瞳がジワジワと私を溶かしていく。
携帯を持つ手から、するりと力が抜けた。
鼻先があたり
ぎこちなく唇が重なる
腰を引き寄せられ
吐息が洩れる
街の喧騒が消え
頭が真っ白になった