ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「でも、あの若さで部長かぁ。
じゃあ、仕事デキる人なんだろうな。」
「そうだね。
まぁ、まだ挨拶程度しか接してないから、
あんまりわからないけど…」
ハチの興味を軽く受け流して、シェパードに向かって会釈する。
必死に笑顔を作る私に、余裕でくつろいでいるシェパード。
ストライプのシャツの上にネイビーのセーターというラフなスタイルにも関わらず、色気が漂っている。
絵になる男……や、絵になる犬だ。
やっと席まで辿り着くと同時に、開演のチャイムが鳴り照明が落ちた。
これ幸いとシェパードに背を向けると、スッと席に腰を下ろした。
とりあえずは2時間は猶予がある。 その間に対処を考えよう。
できれば、このまま関わらずに帰りたい。
向こうも彼女連れだし、観終わった後に声を掛けるのも気が引ける。
でも、転部したばかりだから無視して帰るのもなんだか変だし…
それに、ハチを紹介していいものかどうか。
シェパードに見られちゃってはいるものの、後で何とでも話は作ることができる。
様々な想定が頭の中を逡巡する。
映画のストーリーなんか、これっぽっちも入ってこない。
あれこれ考えてるうちにスクリーンにはエンディングのテロップが流れていた。