ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



その日の午後のことだった。
昼休憩が終わり席に戻ると、シェパードが待っていた。  


「急な話だが、 村上君は今夜は予定あるのか?」



「いえ、何もありませんが…何か?」  



――マジ!?… もしかして、誘われてる?  


内心、胸が躍る。
早速、チャンスが舞い込んできたではないか。

突然で息が詰まったが、平静を装った。  



「実は今夜、クライアントと会うんだが、
君にも同席してほしくてね」  



「私が…ですか?」  



「転部早々で戸惑うだろう。
でも、このクライアントは
今後君に担当してもらいたくてね。

癖のある爺さんだが、筋は通す人だ。
経理での仕事ぶりを聞いた。
君は実直だし、
彼と合うんじゃないかなって思ってね」  



「そう…ですか…」  



――実直だなんて……

――そんなこと言われたこともないけど…  


心なしか返事の声が弱くなった。
その声音から困惑していると勘ぐったのだろう。
シェパードがすかさずフォローを入れる。  



「今日は挨拶程度だし、
そんなに緊張することはないよ」  



「いえ、そういうわけでは……」  


個人的な誘いかという期待から一転、必死に気丈さを取り繕った。
落胆した本当の理由なんて言えるわけがない。  



「そうか。それなら、安心したよ。
じゃ、5時半にフロアを出るから、
準備しておいてくれ」  


そう言うと、シェパードはデスクへと戻って行った。  



――接待だったかぁ……


ま、とりあえず粗相がないようにやらないと…  
初接待ということもあり一抹の不安に駆られながらも、業務に集中していると時刻はあっという間に5時半になった。



シェパードと一緒にフロアを出て、ロビー前へと向かう。ロビーの外には、既にタクシーが一台待ち構えていた。



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