ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
沙希の心労を余所に、しばらくは土佐犬を中心に世間話で盛り上がっていた。
酔いも回りはじめた頃、満を持したように土佐犬が口を開いた。
「さて、じゃ、そろそろ本題に入るとするか」
そう言って土佐犬は半身振り返ると、後ろにいるドーベルマンへ指示を送るように無言で顎を振った。
察したドーベルマンが脇に置いていたアタッシュケースから封筒を2通取り出すと、左右両方に一部ずつ手渡した。
「今から話すことの全容はこの書類に書いてある。
後で目を通しておいてくれ。
まぁ、ここでは
まずわしが大筋だけ説明をしよう。」
相変わらず言うこともやることも威圧的だ。
書面にまとめてあるということは、こちらは了承せざるを得ないという事だろう。
固唾を呑む面々を前にし、何食わぬ顔で土佐犬は話を進めた。
「近々、わが社で新製品を出すことになった。
それを両社で今度の企画に盛り込んでほしい。
両社ともバレンタイン宣戦で大詰めといったところだろう。
時間はないが、必ず売上のUPには繋がるはずだ」
「何関連の商品を出そうというのですか?」
亀井が間髪入れずに訊く。
シェパードは黙って土佐犬を見据えたままだ。
「それは封筒の中を見ればわかる。
商品の詳細も書いてあるし、
条件も悪くないはずだ。
何より、わしが出す商品が
売れないわけがないだろう。
詳細は後で見ればいい。
わしが訊きたいのは、
やるのかやらないのか、それだけだ」
一人息巻く土佐犬だったが、商品すら知らせずに結論を出せというのも無謀な話だ。
しばらく重苦しい空気が流れた。
沈黙を破ったのはシェパードだった。