ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「はい。
まぁ、一筋縄ではいかないでしょうけどね」  


挨拶するタイミングがわからず、シェパードの後ろでペコっと頭を下げた。
笑っている亀井は、若輩者の女に何ができる?と思ってることだろう。  



「亀井と申します。
お手柔らかにお願いしますね」  


こちらを見ながら、お辞儀とは言えないお辞儀をする亀井。
完全に見くびられてる。


悔しさが込み上げた。
へなちょこバーコードなんかに負けてられない。


せめてもの抵抗とこちらも視線を外さずに、
もう一度頭を下げた。  



「村上と申します。 よろしくお願い致します」  



「海老沢です。 宜しくお願いします」  


ハスキーも初対面を装って、名刺を差し出してきた。
飄々とした態度がなんだか腹立たしい。

スーツの中まで知ってますけど、と危うく口から出そうになる。
お返しに、声のトーンを気持ち高くして「村上ですぅ」とこちらも名刺を渡した。


二人が初対面という演技をしているのが滑稽であり、忌々しくもあった。  



「では、私達はこの辺で…」


シェパードが早々に切り上げ出口へと向かう。
沙希は急いで後を追いながら、部屋を出る前に振り返ると急いでお辞儀だけした。


頭を上げると、亀井の後ろでハスキーが耳に当てた手の親指と小指を立てて振っている。
電話を掛けろってことだろう。


こっちも訊きたい事は山ほどある。


視線を合わせてアイコンタクトを取ると、急いでシェパードの後を追った。





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