ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間

シェパード




門の外に出ると、すでにタクシーが用意されていた。
女将の丁寧なお辞儀に見送られ、シェパードに次いで乗り込んだ。


「ご馳走様でした」と挨拶した私には目もくれず、女将の目線はシェパード一点を見据えていた。
シェパードはというと、女将を見やることもせず運転手に駅名を告げている。  



――何か、冷たい

――いくら客とはいえ、会釈くらいしても  


と思ったのも束の間、女将を尻目に車は駅へと走り出した。


お盛んであろうシェパードのことだ。
ひょっとしたら、女将とも情事があったのかも?


まぁ、どう勘ぐろうが想像の域は脱しない。
かといって、訊くまでの事でもない。
野暮な詮索はやめておこうと思った瞬間、シェパードが口を開いた。  



「今日はお疲れさん。
なかなか面白そうな爺さんだろ?」  


ふざけてか、気休めになのか、シェパードは笑いながら訊いた。
その質問で仕事モードへと引き戻された。


途端、文句が泉のように湧き上がってきた。
無論、土佐犬の事だ。
本気であの闘犬の担当を私にさせようとしてるんだろうか?  



「面白そうというよりは、怖いですけどね。」  



「でも、村上君も負けてなかったよ。
あの飲みっぷりは見事だった」  


思い出しながら、シェパードは満足気にまた笑った。  




――やっぱりだ… 酒豪だから、選んだだけだ。



   
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