ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「私に務まるんでしょうか?」  


「大丈夫だよ。 君ならやれる」  


何を根拠にそんな自信満々に言えるんだろうか。
訝しげにシェパードの表情を窺う。

その視線に気づいたんだろう。  


「いや、本当だよ。
現に君はちゃんと鷲尾会長に気に入られただろ。
あの人だって、百戦錬磨の商売人だ。
君の中に何か光るものを見たんだろう」  


「私に…ですか? ありますか?…光るもの…」  


「あるよ」  


「じゃあ、大和部長から見て
私の光るものって何ですか?」  


酒豪だとでも言うんだろうか?  


「負けず嫌いなとこかな」  


「負けず嫌い?
それって、光ってるんですか?」  


「立派な長所だと思うけど…」  


「そうですかねぇ」  


「まぁ、少なくとも 亀井に対しては負けたくないだろ?」  


「だって、あの人」
沙希はシェパードの方に体を向けて言い放った。
「私のことバカにしてたじゃないですか」  


「そうかな?」  


「絶対、小馬鹿にしてましたよ」  


熱を上げる私を見て、嬉しそうに笑うシェパード。  


「ほら、やっぱり
負けず嫌いだよ、村上君は。
大抵は亀井みたいなベテランには
尻込みするもんだけどね」  


「そう…ですか?」  

いきがってたことに気づいて頬が紅潮した。
身の程知らずとはこの事か。  

「まぁ、でも
ベリーベリーには負けられないからね。
その気持ちは忘れないでくれ」  


シェパードから相手の社名が出てハッとした。
情報漏えいが取り沙汰されているのはベリーベリーではなかったか?

ということは、シェパードと亀井が繋がってる?
でも、だとしたら、さっきみたいな態度で接するんだろうか?  


当然と言えば当然だが、二人は明らかに敵対視してる雰囲気だった。
それは新参者の私にもわかるほどに。


ハスキーと私がいたから、敢えてそんな態度取ったのかな?
いや、まてよ。
返答を遅らせたのは、二人で摺り合わせをする時間稼ぎだったんじゃない?


だとしたら、つじつまが合う。
ってことは、やっぱりシェパードは「黒」ってこと?  


ハスキーは何か知ってるのかな?
まぁ、後で電話するし、それとなく訊いてみよう。  


あれこれ詮索しているうちにタクシーは新宿駅に到着した。
遅くなるかなと思ったが、時刻はまだ8時を過ぎたばかりだった。  
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