ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
――これなら、9時までには余裕で家に着ける
そう思って駅に歩き出そうとした時、シェパードから声が掛かった。
「あ、そうだ。
この後、予定がないなら、
少し飲んでいかないか?」
――…っ!? ――マジ?
まさかのシェパードからの誘いだった。
ハチには接待で遅くなると言ってある。
このチャンスを逃す手はない。
「う~ん、…少し…だけならいいですよ」
待ってましたバリの二つ返事は避けた。
ヒマだとも思われたくないし、軽い女のレッテルも貼られたくない。
「よし!じゃ、行こう」
シェパードは私の返事に気を良くしたように意気揚々と歩き出した。
すでに店は決まっているようだ。
連れてこられたのは、三丁目駅近くのビルの地下にある洒落た感じのバーだった。
『BACKSTAGE』という小さな看板の脇を地下に降りた所にあり、 カウンター席が7席あるだけの狭い店だが、静かにブルースが流れる趣のあるバーだ。
オールバックにあご髭を蓄えたマスターがカウンターでタバコを燻らしている。
マスターの雰囲気を見る限り、客に媚びるのではなく、彼のポリシーで独特の雰囲気が作られている感じだ。
客は壁際に一人と二つ席を空けてもう一人いるだけだった。