ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
お互いに一口グラスに口を付けると、
「やっぱり、オフの酒が一番美味いな」
とシェパードは屈託のない笑顔を見せると、もう一口グラスを傾けた。
その後、しばらくはシェパードが一人で話し続けていた。
このバーにはよく一人で来ている事
若い頃、仕事で失敗した事
学生時代はサッカー部でエースだった事
若くして部長職まで昇りつめただけのことはある。
人の気を惹きつけるような喋りと雰囲気はさすがだった。
土佐犬と対等に渡り合っている時とは違うオフのシェパード。
ざっくばらんに話す彼のあどけない表情がまた魅力的に見えた。
2杯目を頼んだところで、シェパードがネクタイを緩める。
その仕草に目が釘付けになった。
私はその仕草に弱い。
男が仕事の緊張から気を緩めるその一瞬に色気を感じるのは私だけじゃないはず。
しかも、目の前にいるのはシェパードだ。
バーの雰囲気も手伝ってか、より一層色気が増している。
酒の力を借りてか、その色気に酔わされたか。
沙希は今ならいろいろ質問できそうかと気が大きくなった。
「大和部長はこの店にはよく来られるんですか?」
「いや、たまにだよ。
今日みたいに接待で
ストレスが溜まったとき…くらいかな」
「え?…ストレス?」
シェパードの返答は意外だった。
土佐犬にも物怖じせずに対応している彼にはストレスなど無縁に思えたからだ。
「あの爺さんとは… いろいろと因縁があってね。」