ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
たしかに、思い返せばシェパードと土佐犬のやり取りには含みのある発言が多かった。
あれこれと詮索してみたい衝動に駆られた。
「これから私は担当になるんですよね?
差し支えなかったらでいいですけど、
教えてもらえませんか?」
「ん~、や、その話はやめておこう。
君がこれから付き合っていくのに
先入観が生まれるかもしれない。
まぁ、大したことではないから。
心配はしないでくれ。」
シェパードは考えた末に言葉を選びながら、沙希の質問を受け流した。
相手の表情を見る限り、これ以上しつこく訊くのも気が引ける。
武骨な女だと思われるのも今後に響きかねない。
沙希は部署の話題へと切り替えた。
「わかりました。
ところで、営業企画部って
もっと活発なイメージがあったんですけど、
フロアでは皆黙々と仕事してるんですね」
「そうかな。
まぁ、自分の部署だと
それが普通になってるからね。
気が付かなかった。
でも言われてみれば、
他部署と比べれば会話は少ないかもね。
自分は自分って感じで皆マイペースだからね」
「自分は自分ですかぁ。
じゃあ、仕事終わりに一杯って
そういう付き合いも無い感じですか?」
「そういうの無いかも…な」
シェパードは少しはにかんで答えた。
「部内の団結は必要なんだけどな。
それは俺の責任かな。
部長自らが和んだ雰囲気も作らないと…ね」
「いえ、部長の責任ではないと思います」
沙希は慌てて、フォローを入れた。
が、シェパードは自嘲するような笑みを浮かべながら続けた。
「いや、俺のせいなんだ」
沙希は思わず訊き返した。
「何かあったんですか?」
「それは…」
シェパードは言うべきか一瞬躊躇して、喉の奥で飲み込んだ。
「まぁ、また機会があったら話すよ。
とりあえず、部内が明るくなるように努める
ってのが俺の役目ってとこだな」
「わかりました。
私も微力ながら、
盛り上げていこうと思います」
「ありがとう」
シェパードは状況を察した私に感謝するように礼を言うと、スーツの袖をまくって時間を確認した。
「あ、もうこんな時間か。
そろそろお開きとしよう。
あんまり遅くまで連れまわすと
昨日の彼も心配するだろうし…」
沙希が腕時計を見ると、針は11時手前になろうとしていた。
もうこんな時間かとビックリすると同時に、シェパードの話が上手く、時間を忘れさせられたことに感心もした。
ハチが頑なにお座りしたまま帰りを待ってる姿が頭に浮かんだが、まだ電話をかけてくるほどの時間でもない。
本心はいろいろと探りをかけたかったが、今日は気疲れもしたし、収穫はそれなりにあった。
とりあえず今はここまでと考え、シェパードに促されるように店を出ることにした。