ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
ハスキー
シェパードと別れると、沙希は真っ直ぐに家へと向かった。
桜上水駅の改札口を出た途端、マンションの前までの数十メートルが急に体が重くなる。
満員電車に揺られたせいもあるが、精神的な安堵と極度の疲労もあるだろう。
体の疲労だけじゃなく、今日は気苦労も重なっている。
もうハチは帰ってきてるはずだ。
ハチには悪いが、肩でも揉んでもらおう。
気力を振り絞って部屋の入口まで辿り着いたが、意外にもカギは掛かったままだった。
――あれ?…戻ってない?
入口のドアを開けると、真っ暗でシンと静まり返っている。
残業なのかな?とさほど気にも留めず、冷蔵庫を開ける。
キンキンに冷えた缶ビールを取り出してソファに腰を下ろした。
求めるがままにビールを体に流し込む。
火照った体が身震いするほど、冷えたビールは体中に染み渡った。
一息つくと、今日出会った面々が脳裏に甦った。
それぞれの顔を思い出す度、先が思いやられる。
それに、ハスキーとの再会?再再会?
神様がいるとしたなら、悪戯し過ぎだって文句の一つも言ってやりたい。
――そういえば、ハスキーが電話の合図をしてたっけ
時計を見ると、11時30分をまわったところだった。
まだ大丈夫、と自分に言い聞かせて電話を掛けた。
出るかな?と心配する間もなく、3回目のコール音で通話になった。