ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間

ハスキー




シェパードと別れると、沙希は真っ直ぐに家へと向かった。
桜上水駅の改札口を出た途端、マンションの前までの数十メートルが急に体が重くなる。

満員電車に揺られたせいもあるが、精神的な安堵と極度の疲労もあるだろう。
体の疲労だけじゃなく、今日は気苦労も重なっている。


もうハチは帰ってきてるはずだ。
ハチには悪いが、肩でも揉んでもらおう。


気力を振り絞って部屋の入口まで辿り着いたが、意外にもカギは掛かったままだった。  


――あれ?…戻ってない?  

入口のドアを開けると、真っ暗でシンと静まり返っている。
残業なのかな?とさほど気にも留めず、冷蔵庫を開ける。
キンキンに冷えた缶ビールを取り出してソファに腰を下ろした。
求めるがままにビールを体に流し込む。
火照った体が身震いするほど、冷えたビールは体中に染み渡った。  

一息つくと、今日出会った面々が脳裏に甦った。
それぞれの顔を思い出す度、先が思いやられる。

それに、ハスキーとの再会?再再会?
神様がいるとしたなら、悪戯し過ぎだって文句の一つも言ってやりたい。  


――そういえば、ハスキーが電話の合図をしてたっけ  

時計を見ると、11時30分をまわったところだった。

まだ大丈夫、と自分に言い聞かせて電話を掛けた。
出るかな?と心配する間もなく、3回目のコール音で通話になった。  
< 54 / 153 >

この作品をシェア

pagetop