ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「何故、呼ばれたのかはわかっているな?」
「え?…あの…わかりません…けど」
「知らないはずはない……と思うが?」
わかってる。
けど、普通こう答えるでしょ、この場合は。
「ふっ、とぼけるか……まあいい。
では単刀直入に聞こう。
わが社が社内恋愛禁止なのはもちろん知ってるな?
なのに坊っちゃんと…関係を持ったそうだな?
しかも、誘ったのは君らしいじゃないか。
一体、どういうつもりだ?」
まさに直球。
緊張が全身を駆け抜ける。
「関係?…誘った?……え?」
いたって冷静な装いでシラを切った。
「一体、何のことですか?」
「シラばっくれるな。
こちらにはそういう報告が来ているんだ。」
ブルの横に立つパグの皺が渓谷のように深くなっていく。
当然だろう。
進退に関わる問題だ。
「シラばっくれるなと言われましても…」
「坊っちゃんから君から誘われたのは間違いない…
と訊いているが?」
間違いだ。
誘ってきたのは彼。
だが、ここは公平な裁判所なんかじゃない。
白を黒へと塗り替えられる非合法な場だ。
――じゃれ合ってきたのは、ポメのほうなのに…
が、ポメに真偽を問いても無駄だ。
酸いも甘いも知らない座敷犬のこと。
今まで問題を起こしても、周りが片づけてきてくれたんだろう。
今回だってブルに言い聞かされているはずだ。
坊っちゃんは「お座り」しているだけでいいですからね、と。
「坊っちゃんがそう言ってるんだ。
間違いないだろう。
まぁ、認めようが認めまいが、
君が誘ったのは紛れもない事実だ。」
抗ってもこちらに勝ち目はない。
しばらく続いた沈黙がこちらの了解を暗に意味していた。