ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



企画部のフロアに戻ると、早速シェパードはメンバーを集め、企画の変更を告げると、各担当者に的確に指示を送った。

表情が曇る者もいたが、命令とあらば仕方ない。
状況はすでに周知の事実だ。

沙希も与えられた仕事に没頭していたが、気が付けば時計の針は7時半を指していた。
もう少しでキリがいいところではあったが、サッサとデスクを片づけると沙希は会社を後にした。


これから、ハスキーと会うことになっているからだ。  

気は進まない。
が、少しでも情報を得られるなら仕方ない。
何から訊こうかあれこれ考えている内に、約束の喫茶店に着いた。


「喫茶ホットドッグ」


何年振りだろうか。
かつて若かりしハスキーと私が足繁く通った店だ。

こじんまりとしているが、レンガ造りの内装とランプの光が落ち着ける雰囲気を醸し出している。  


あの頃とは違う状況に複雑な気持ちを感じながら、ギィ~と鳴る古い木のドアを開けた。
ハスキーを探すと、一番奥の席で手を上げている。


同じ場所、同じ仕草、同じ笑顔…

古びた店内で長い時間語り合った光景が甦った。
だが、目の前にいるのはあの頃の彼じゃない。
ユーズドのジーンズではなく、ビジネススーツで身を固めた成犬だ。


いや、別の女を選んで、私に大人への階段を上らさせた狂犬だ。  


――何で、この店を選んだのか  


デリカシーの欠片もない選択に虫唾が走った。
が、今はそんなことはどうでもいい。
何か一つでも自分に利のある情報を得る方が先だ。

物思いにふけるやら苛立つやら気持ちが交錯する中、咳払いを一つ入れて席に着いた。


 
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