ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「ところで…その…なんだ」
急に言葉を選ぶように切り出すブル。
「君はどう思ってるのかね?」
質問の意味が理解できず、沙希は首を傾げた。
「わからんか?
坊っちゃんとの関係は
なかったことにできないかと
訊いてるんだがね?」
ようやく事態が飲みこめた。
彼と関係を続けたいのか諦めるのかを訊きたいのだ、と。
ブルでなくても、周囲はこう想像するだろう。
彼は社長の息子。
私がポメとの関係を続けたいに決まってる、と。
付け加えれば、
次期社長の彼を射止めて玉の輿を狙っている、と。
得意先が絡んだ縁談だ。
彼らから見れば、私は邪魔な虫以外の何物でもない。
諦めさせたいが、無理強いして逆上した私が取り乱して揉め事になってもまずい。
だから、腫れものに触るような訊き方をしているんだ。
――まったく…勘違いも甚だしい。
と腹を立てたところで、仕方がないとも思った。
彼らは私の内心を知らないのだ。
まぁ、私にとっては「H」は犬と散歩する程度のこと。
残業で遅くなったときに彼がじゃれ合ってきたから、付き合ってあげただけ。
ただそれだけのことだ。
ただどんな「H」をするのか興味はあったけど…
大したことはなかった…かな。
「どうなんだ?
部長が訊いてらっしゃるだろう」
苛立ったパグが返事を急かす。
面倒くさいから、簡単に済ますこともできた。
が、何食わぬ顔ですましていたポメが癪に障る。
ポメの不埒な悪行三昧は、社歴の浅い社員以外は知らない者はいない。
思わせぶりなセリフ一つでヤレることをあの座敷犬は習得している。
タチが悪い。
ちょっとからかってみたくなった。
「相馬さんの気持ちはどうなんでしょうか?」
問題は私じゃないでしょ?と訊く。
ピクンとブルの眉根があがった。
あの晩、ポメは愚痴っていた。
好きでもない女と結婚しなきゃならないんだ、と。
私のことが好きなんだ、と。
たぶん、いやきっとそれも嘘だろう。
狙った女の気を引くためのね。
じゃあ、敢えてそのセリフを信じたフリを演じてあげようじゃない。
「坊っちゃんは火遊びだと言っているが…」
「本当ですか?」
「疑うのか?」
ブルの右眉が吊り上った。
「何で君に嘘をつく必要がある?」
「相馬さん本人の口から聞きたいのですが…」
「その必要はない」
断固としてブルは姿勢を崩さない。
慣れたものだ。
今までにもこの手の交渉は多々あったのだろう。
「できませんと言ったら…
どうなるんですか?」
「こちらも
それなりに対応しないといけなくなるが…」
ブルの眼が威圧的に光る。
これはもう脅迫に近い。